27歳の頃、先輩から言われた言葉がある。
「走り続けろよ。止まったら終わりだぞ」
当時の僕は、この言葉を真に受けて必死に走り続けていた。
毎月のKPI達成、週報の提出、商談件数、提案資料の作成。
とにかく動いて、成果を出して、数字を上げて、上司に報告する。
そんな日々だった。
走れば走るほど評価される世界で、
自分が本当に何をしたいのかなんて考える余裕はなかった。
でも、ある日の営業帰りの電車で、突然涙が出た。
特に理由があったわけではない。
ただ、何かが壊れている感覚だけがあった。
「なんで、こんなに走っているんだろう」
何のために?誰のために?
数字の先に、一体何があるんだろう?
その週末、思い切って携帯の電源を切った。
日曜の朝、何年ぶりかに散歩をして、コーヒーを飲んで、本を読んで、空を見上げた。
深呼吸をした。
止まってみて初めて気づいたのは、
数字の中に埋もれて、自分の考えや感情、好き嫌いすら置き去りにしてきたということだった。
「走り続けないと価値がない」
いつの間にか、そんな呪いを自分にかけていたのかもしれない。
でも、止まったからこそ見えたものがある。
誰と働きたいか。
どんな働き方をしたいか。
どんな価値を提供したいか。
走ること自体が悪いわけではない。
問題は、どこに向かうかを考えずに走り続けることだ。
今の僕は、前ほど速くない。
だけど、向かう先ははっきりしている。
焦らなくていい。止まってもいい。
むしろ、止まらなければ見えないものがたくさんある。
「止まったら終わり」なんて嘘だった。
僕は止まって、やっと始まることができた。